Maniken〜地域経営のためのあたらしいマニフェスト研究所〜

予算主義から決算主義への挑戦(2)今なお続く予算主義

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一般社団法人Maniken
地域経営のためのあたらしいマニフェスト研究所
中村 健

私は1999年の統一地方選で当選し町長になった。その1年後(2000年)に地方分権一括法が施行したのだが、今でも覚えている出来事がある。
1999年までは、いわゆる中央集権時代。国が市町村の政策も考え・予算も付けてくれる時代だった。そのため、市町村は国へ陳情&要望活動を頻繁に行っていた。町長へ就任したばかりの私も周囲から「国へ何度も行って関係性を創ることが重要。国からいくらお金を引っ張って来れるかが首長の手腕だ」と聞かされていた。そのため、霞が関や国会議員会館へ足しげく通っていたが、心の中では「どうしてこんなことやらなきゃいけないのか?」と常に葛藤があった。
ただ、議会内の答弁は楽だった。議員から質問されても「それは国の制度がそうなっているから」とか「予算は国がつけてくれますから」という答弁が多く、まぁ、平たく言えば「キツイ質問が来ても逃げられた」のだ。

ここまで書けば気づいた人も多いだろう。そう、中央集権時代は「市町村による国の予算分捕り合戦」が行われており、国へ何回挨拶に行ったか、国の誰と繋がっているか、国会議員へ何度お願いに行ったか・・等々に活動が傾けられ、とにかく予算を付けることに意識が向いていた時代だった。予算が付けば安心して行政サービスが執行できた。
しかし、議会答弁は2000年の地方分権一括法でガラリと変わった。これまでは逃げる答弁が出来ていたが、政策も予算も自分で(市町村自らが)考えなければならなくなったからだ。議員から「予算はどうするのだ?」「この政策はどうしてこういう中身になっているのだ?」と質問されれば、具体的に自分の言葉での説明が求められるようになった。いわば「自己責任」が生れた。

2007年に北海道夕張市が財政破綻(企業でいう倒産)を起こしたのは地方分権の象徴的な出来事だった。全国の市町村関係者は「最後は国が助けてくれるんじゃないか?」と多くの人が思っていただろう。しかし、地方分権になり自己責任ということで国は助けず財政破綻となった。その時出来た財政健全化法は、さらに市町村に「自立」「自己責任」を強く求めるものだった。
したがって、「自分で考える」「自分でやってみる」「そのために皆で話し合う」ということが、とても大事になった。

2000年から25年(四半世紀)が経過したが、頭の中が、今なお中央集権時代のままでいることを現場で感じることが多い。
「自分で考える」「自分でやってみる」「そのため皆で話し合う」ということが未だ未成熟なようだ。
本来、市町村の予算は「自分の住んでいる地域が善くなっていくこと」に使われる。すなわち、ビフォーアフターのアフターが大事だ。アフターすなわち「どうなりたいか?」「どこまで変わったか?」が重要視される。「どうなりたいか」「どこまで変わりたいか」ということは関係者で事前に意識合わせをしておく必要があるため「皆で話し合う」ということが大事だ。皆で話し合うためには、自分で考え
なければならない。考えただけでは変わらないので「やってみる」というアクションが伴わなければならない。こういうプロセスに一人でも多くの人が関われば、力は結集されるし成果につなげるスピードも速くなる可能性がある。よって、まちが善くなっていくための最初に重要なことは、「この後どうなりたいのか」という「将来のビジョン」(アフターのイメージ)の共有。合意形成だ。

「将来どうなっていたいか」とは、お金の視点から言えば「決算」である。「お金を付けて活動した結果どうなったか?」は決算だから。
ところが、予算を付けることばかりに意識が向いていると「どうなっていたいか」よりは「何をするか」「どうやってやるか」という手法ばかりが話題の中心になる。その結果、「やることが目的化」してしまい、やったことで満足感が高まり「で、どうなった?」という意識が希薄になる。これを毎年繰り返しても「毎年毎年がんばっているのに何故か成果があまりあがらない」という結果に陥りやすい。

予算は「実現したいことを実現させるための必要経費」である。
だから、大事なことは「なにを実現したいのか」であって「経費を使って活動した結果、実現できたのかどうか」、「目標としていた地点のどこまで進むことが出来たのか」だ。
このことを忘れて、「とにかく予算を獲得すること」「やること」に集中するだけにならないように注意が必要だ。そのため、四半期に一度の進捗状況のチェックやゴールに迎えているかどうかを確認しながら進めることがなければ、予算を付けるだけ、付いた予算を執行するだけになりかねない。こういう症状を「予算主義」と言われる。
「何かをやる前」には、「何故やるのか」、「誰のためにやるのか」、「どこまでやるのか」等の目的や目標(すなわち将来のゴール)を明確にして皆と共有してから進めることが大切だと思う。

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