
「会議録の作成が大変なんです」という議会事務局は一定数あるだろう。
本会議であれば議事録作成会社に依頼している議会が多数だとは思う。
一方、議会にはさまざまな会議があるなかで、事務局職員が担当する「議事録作成」は一定程度あり、特に小規模自治体の議会事務局では従来はすべて人手で整えるため時間と労力がかかっていることと思う。
そこで島根県浜田市議会事務局は、生成AIを組み込んだ独自フローで「委員会の要点筆記」の作成に実用化の道筋をつけた。
少しでも生成AIを活用して、事務局の「作業」を「仕事」にする一助になればと思い、浜田市議会事務局の許諾を得てそのやり方を紹介する。
※注:今回紹介する浜田市議会では、委員会の議事録の作成は「要点筆記」の対応が可能であり、その作成方法を教えていただいた。「逐語録」の議事録作成とは状況が違うが、いちから作成するよりも作業量は削減されるであろう。参考にしてほしい。
議会の生成AI研修をきっかけに事務局も活用検討
2025年6月、「地方議会を変革する生成AI活用研修会 ~地方議員がゼロから始めるChatGPT」と題した議員研修会が開催され、そこに早稲田大学デモクラシー創造研究所招聘研究員の西川裕也氏と私(青木)が講師として招かれた。
研修会の詳細はこちら(浜田市議会公式サイト)
そうした議員の皆さんのやる気にも呼応し、議会事務局でも事務作業を効率化していき、より政策立案力を高めるため、生成AIの活用を検討しているとのことだった。
議事録は法的文書としての正確さが必須であり、単なる自動文字起こしではなく、議会特有の書式や言い回しを守ることが求められる。この「精度の向上と効率化の両立」が、浜田市議会事務局の挑戦の出発点となった。
月に数件、委員会ごとに「丸2日の作業」が発生
いわゆる「議事録作成」をしたことがあればわかると思うが、音声を何度も何度も聞いて、テキストに打ち出していく地道な作業だ。
現在、浜田市では「ProVoXT」というサービスに音声データ(.mp3)を読み込ませて文字起こしを作っているというが、それでも「議事録」に仕立て上げていくには、読み込ませてメモをつくるだけでは足りない。
※注:浜田市ではLGWAN上に「ProVoXT」を導入し、市役所全体で使用している(議会事務局で導入しているものではない)
また委員会は短くても2時間、長いと5〜6時間に及ぶ。従来は録音を聞きながら職員が一次処理を行い、その後、正規職員が再チェックし完成まで丸2~3日を要していた。
月に5〜6回、多いと10件近い会議録作成業務があり、他の業務との並行は常に時間との戦い。結果として、議会運営や議員支援よりも「記録作成」に時間が取られてしまう状況が続いていた。
「議事録作成それだけ」に注力できるならいいが、もちろん別の日常業務や突発対応も発生する。人も時間も限られるなかで、議事録作成の効率化は重要な課題となっていた。
AI活用のプロセス
浜田市議会事務局次長の濱見さんは、数々の試行錯誤を経て、生成AIのサービスの1つである「Google AI Studio」を活用した委員会の要点筆記作成フローを構築した。
いわば「浜田市議会事務局版フロー」は次の4段階で進む。
1.一次処理:生成AIを活用した文字起こし
Google AI Studioに①会議音声データをアップロードしてテキスト化。
その際、②録音時に文字起こししたテキストデータ、③会議録サンプル(.pdf)、④公文書の書き方まとめ(.pdf)資料などを参考資料として添付し、発言者ごとに整理し、全体の元データを作成する。
【プロンプト例①】 ※必要資料を添付のうえで、以下を生成AIのチャット窓に入力する
あなたは、浜田市議会事務局に所属している、とてもとても優秀な市役所職員です。
音声から文字起こししたテキストを使って、スムーズな文章に整えて、会議録を作成したいです。
会議録サンプル(.pdf)を添付します。
これらは、過去に行われた総務文教委員会、福祉環境委員会、産業建設委員会のそれぞれ3回分、合計9回分の会議録です。
これらに倣った表記や書式で作成します。
まずは、書式、言い回し、まとめ方、発言者の表示の仕方、発言内容の表示の仕方、「呼ぶ声あり」、「休憩」、「再開」、「執行部退席」等々、ルールを正確に把握してください。
また、公務員は、公文書の書き方のルールに沿って文章を作成する必要があります。
公文書の書き方まとめ(.pdf)を添付しますので、このpdfにある公文書のルールを正確に把握してください。
では、会議録サンプル(.pdf)、公文書の書き方まとめ(.pdf)を添付します。
まずは、会議録を出力するルールを正確に学んでください。
この後、文字起こしを会議録にする指示を出します。
2.二次処理:11のルールを適用した整形
①1で文字起こししたテキスト(.txt)、②会議資料(.pdf)、③委員会の進行シナリオ(.pdf)をAIに読み込ませ、浜田市議会仕様の書式・文体・表記ルールを理解させる。
この段階で「11のルール」を提示し、それに沿って話し言葉を自然な書き言葉に変換し、発言者名・議題の明示、句読点の付与、固有名詞の正確化などを実施。
なお、テキスト生成が長くなると、ルールを忘れたり、文章を省いたりする「くせ」がある。それを後半のルールで再度意識するようにしている。
【プロンプト例②】 ※必要資料を添付のうえで、以下を生成AIのチャット窓に入力する
次に、文字起こししたテキスト(.txt)、会議資料(.pdf)、シナリオ(.pdf)を添付します。
先ほど把握した会議録を出力するルールに沿いながら、次の11点の方法で整えてください。
1.話し言葉を自然な書き言葉に変換し、余計な部分を削除してください。
2.文法的な間違いや不適切な表現を修正してください。
3.内容の流れを壊さないように配慮してください。
4.句読点を適切に付与してください。
5.発言者が分かるように区別をしてください。なお、発言者がほぼ判明している場合は、添付する会議資料の出席者のフルの表示(苗字所属役職)を使用してください。
6.発言者と発言内容は、サンプル(.pdf)のように別の行にしてください。その際、発言内容の行頭は、字下げのスペースをつけないでください。発言が改行される場合も同じくつけないでください。
7.議題が分かるように区別をしてください。その際、サンプル(.pdf)のように、会議資料レジュメの議題をそのまま抜き出して表記してください。
8.専門用語と思われる名称や数値などは、添付する会議資料などを参考にしてください。
9.発言には、箇条書きを使わないでください。
10.先ほど学んだ出力ルールのことも忘れずに出力してください。
11.非常に長いですが、省かないで作成してください。システムの都合で一度に作成できない場合は、途中で区切っても良いです。その時は、続きを作ってもらうよう指示します。
では、文字起こし(.txt)、会議資料(.pdf)、シナリオ(.pdf)を添付します。
会議録を作成してください。
3.三次処理:最終形に向けた文体・表現調整
「である調」や全角アルファベットなど、公文書規定に合わせた最終形へ整える。
なお、二次と三次をまとめて実行することも可能だが、安定性を優先して段階的に実施している。
【プロンプト例③】 ※必要資料を添付のうえで、以下を生成AIのチャット窓に入力する
とても良くできています。
では、今作成した会議録の「ですます調」になっているところを「である調」にしたいです。
また、アルファベット表記は、全角にしたいです。
以下の7点のとおり変換して整えてください。
その際、一番初めに覚えた公文書の出力ルールのことも忘れずに出力してください。
1.【最重要】「ですます調」は、「である調」なるよう自然な言葉に変換してください。
2.話し言葉を自然な書き言葉に変換し、余計な部分を削除してください。
3.返事、お礼、お詫びの一言などは、話の流れに影響が少ないものは削除するか、話の流れを壊さない別の言葉に置き換えてください。
4.文法的な間違いや不適切な表現を修正してください。
5.内容の流れを壊さないように配慮してください。
6.アルファベット表記に半角があれば、全角に変換してください。
7.修正したところを太字で強調してください。
では、「である調」に変換して整えてください。
4.四次処理:人の目による最終確認
3で出てきたデータをもとに、担当職員が誤字脱字や固有名詞の誤りを修正し、議会事務局としての最終版に仕上げる。
AIの出力はそのままでは公表せず、必ず人間のチェックを経て完成させる。
なお、「本当に効率化できるのか」と疑問をお持ちの方は、一次処理だけでもやってみてほしい。
音声の質にもよるが、ものの10数分で一定の質の”発言メモ”ができるだろう。
また、二次処理と三次処理については、各自治体での議事録作成ルールをもとに微調整してほしい。
工夫により作成時間が1/4に
生成AIの導入によって、これまで丸2日かかっていた委員会会議録(要点筆記)の作成時間は、わずか半日程度と1/4にまで短縮された。
これにより、委員会の開催当日中にはYouTubeで映像を公開でき、翌日にはほぼ完成した会議録を用意できるようになった。
事務局職員からは「ゼロから文章を起こすのではなく、AIが作成した原稿をもとに確認・修正を行う方が格段に楽で、作業効率が大きく上がった」との声が上がっている。
こうして削減できた時間は、議員へのサポートや政策立案など、本来もっと時間をかけるべき業務に充てられており、事務局全体の業務の質とスピードの両方を底上げする効果が生まれている。
運用上の工夫と課題
AIを使うことで、会議中の方言や口語表現は自然な標準語に整えられる。しかし一方で、地名や固有名詞の誤認識は一定の割合で発生する。
この課題に対応するため、浜田市議会事務局では過去9回分の常任委員会会議録サンプルをAIに学習させ、議員名や地名の誤りを極力減らす工夫を行っている。
こうした事前準備は、AI出力の精度を左右する重要な要素だ。
また、AIには「同じ指示でも忘れる」という特性があるため、重要な指示は二次処理と三次処理の両方に重複して入力している。
従来は二次処理と三次処理をまとめて行ったこともあったが、ルールや指示が多くなると一部が抜け落ちるリスクが高まることが分かり、あえて工程を分けて安定性を確保している。
さらに、ChatGPTやGeminiなど複数の生成AIも試行したが、添付資料の読み込みや出力品質の面で課題が残った。特に、浜田市議会の会議録作成では複数の資料や規定文書を正確に参照する必要があり、現時点では無料で、安定した精度を得られるGoogle AI Studioの利用に落ち着いている。
最後に
今回紹介したGoogle AI Studioに限らず、生成AIを活用することで職員からは
「時間削減が最大のメリットであり、これまで以上に頭を使う業務に時間を割けるようになった」
「挨拶文や要望書の作成にも応用でき、背景情報を加えて短時間で完成できる」
「出力をそのまま使うのはリスクがあるため、人間による最終確認は必須」
「使ったことがなかった職員も、実際に触れて活用の幅を実感した」などの声が寄せられている。
今後は、会議録にとどまらず調査報告書や議会だより原稿など幅広い文書作成支援への応用を進め、「持続可能な議会事務局力」の向上を目指すことが課題だという。
浜田市議会事務局の事例は、生成AIを現場実務に落とし込むための「橋渡しモデル」として注目でき、公的機関がAIを使いこなすには、機械任せにしない“人×AI”の役割分担が不可欠であることを示している。
その実践例として、全国の議会事務局にとって大いに参考となるはずだ。